怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「そう。思い出してよ、あかね。あのとき、車の前で」
「……あっ」

 ハッとしたあかねに、要はニッと笑いかけた。

「あのとき、猪口さんと大島さんコソコソ話してた!」
「どのときだ?」

 首を傾げた秋葉の肩をバシバシ叩いて、

「ほら、散歩に出ようって外に出たときよ! 由希に再会する前!」
「あ~あ。確かに。よろしくとか言ってたな」
「でしょ?」
「それだけが理由なの?」

 笹崎が呆れたように肩をすくめる。要は、立てた人差し指を軽く振る。

「それだけじゃないよ。彼女は交霊会の際に大島さんの右側にいた。それに、大島さんの単独となると無理があるんだよ。この動画制作にはね」

 要はピッと人差し指を止めた。



「ビデオカメラは三台とも全て暗視カメラモードがある物で、部屋が暗くなると自動的に切り替わる設定がされてた。故に映像も暗転してからも途中までは映ってる。カメラが故障しなければ火が点いた瞬間もばっちり映ってたはずよ。その際、自分で火を点けたら、ばっちりそのシーンだって映っちゃうでしょ。カメラ大島さんに向いてるんだもん」
「でも、編集すれば良いんじゃないの?」
「それはそうなんだけどねぇ、笹崎さん。でも、今までの荒らしや仮面の動画はあまりぶつ切りの編集はされてないのよ。そうしちゃうと、ドッキリの醍醐味がなくなっちゃうから」
「あ~……確かにそうだったかも」

 笹崎は今までの動画を思い出して顎を引いた。

「突然火が点いた! その瞬間を彼女は是非ともノーカットでお届けしたかったはず! だって、繋ぎ合わせた映像を載せたりしたら、それを見抜かれたときまた叩かれるし、視聴者が離れるから。彼女は起死回生の望みをこの動画に賭けてたはず。その証拠に、これまで荒らしや仮面は自分が危険なことをしたことはなかったし、自分が映像に出るときは必ず素顔を隠してた。それなのに、その二つを破って今回は挑戦した。そんな動画をぶつ切りにするとは思えない。だから、自分は恐怖に戸惑った演技をしているうちに、そっとカメラの死角から火を点けてくれる相棒が必要だった。暗闇でも手を繋いでいれば、共犯者は反対側の手を離し、火を点けるのは簡単だもの。目印の腕は握ったすぐ先にあるんだから。ねえ、田中さん。あのとき、猪口さんはあなたの手を繋いでた?」

 田中は静かに首を横に振った。

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