怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「驚いた拍子に猪口さんは僕の手を離しました。僕も、離しちゃいましたけど」
「私も離した」

 気まずそうに笹崎が同意すると、あかねも、「私も」と同じく気まずそうに苦笑した。

「それに、共犯者には猪口さんはうってつけだったのよ」
「どうしてだ?」

 いつの間にか真剣に話を聞いていたジャブダルが、食い入るように訊く。

「猪口さんはあなた方に恨みがあったし、売名行為もしたかったから。まあ、これはあたしの憶測だけど、あなた方の間でトラブルがあったのは明白だし、本来ならすぐに用意してあったバケツで火を消し、失敗したんだと騒ぎ立て、猪口さんが代わりに交霊会だか除霊だかをやって、万事解決。みたいな流れだったんじゃないかな」
「そういえば、猪口さん、大島さんが火達磨になったときバケツ持ってた」

 あかねがハッとして口元に手を当てた。

「でも、共犯ならどうして大島さんを殺す必要があったの?」

 要はあかねの質問には答えなかった。要本人にとっても、それはまだ謎のままだったからだ。というよりは、何かがおかしい気がしていた。大島に火を点けたのはおそらく猪口で良いだろう。だが、要は引っかかりを覚えていた。

「まあ、猪口さんならやりかねないけれど」

 ぼそっと嫌悪感のある声音で上河内が呟いた。要はふと、上河内らと猪口の確執を思い出し、あえて軽い調子で尋ねた。

「ジャブダルさん達と猪口さんの間に何があったか訊いても良いですか?」
「……先生?」

 上河内はジャブダルに伺いを立てる。ジャブダルは深く頷いた。

「猪口さんは効きもしないアクセサリーを、自分のところに相談しに来た方に法外な値段で売りつけたりしていたんだ。私共の信者さんや親族の中にも被害者がいて、あなたには悪霊がとり憑いているとか脅してくるんだそうで」

「とにかく性質の悪い人なんですよ。詐欺集団とも関わりがあったみたいで、自分のところのアクセサリーを買わなかった人に、不幸が起こるとか、まもなく幸運が起こるとかなんとか言って、その通りのことを詐欺集団の仲間が実行すれば、あっという間に信じるでしょう? それで、自分のところに再び来た人に、またあの手この手で騙して……。全財産を失って自殺してしまった人も何人もいるそうなんですよ」
「へえ。胸糞悪いな。だから捕まったのか」

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