怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 軽蔑を露にした秋葉に、ジャブダルは首を横に振った。

「詐欺で警察に捕まったわけじゃないんだよ」
「え? なんで?」
「被害届けはたくさん出ているだろうが、証拠がないみたいでね。警察に聴取されたっていうのは、任意だよ。しかも、罪状は詐欺じゃない。殺人だ」
「殺人!?」

 ジャブダルと上河内以外が息を呑んだが、言葉に出して驚いたのは要だった。ジャブダルは要を見て、顎を引く。

「彼女は先程我々のせいで警察にとか言っていたが、それはあまり関係ない。確か、三年だか前に事件が起きたらしいんだ。男性が亡くなったとかで。それで、捜査線上に猪口が浮かんだらしいんだが、猪口にはアリバイがあった。そして、詳しい解剖の結果で、男性は自殺だったと判明したんだ。彼は猪口に騙された一人だったらしい。自殺する際に、猪口の仕業と見せかけて、少しでも無念を晴らしたかったんだろう」
「そんなことが……」

 あかねが悲痛な表情で呟いた。誰しもがしんみりとする中、要がそれを吹き飛ばすように言った。

「とりあえず、色々と本人に訊いてみましょ」

 *

 猪口の部屋の前で、一行は緊張を隠しきれずにいた。要が代表としてノックをするが、返答がない。何度か繰り返したが、やはり返答がなかった。

「埒があかんな!」

 痺れを切らしたジャブダルがドアノブを回したときだ。ジャブダルは神妙な顔つきで、振り返った。

「開いてるぞ」

 お互いに視線を送りあって、自然と頷き合う。ジャブダルはそのままドアノブを押した。いとも簡単に開いたドアの先は電気が消され、真っ暗だった。ジャブダルが部屋の電気をつけると、蛍光灯に部屋が照らされる。ダブルベットが一つ置かれ、奥には大きめな窓が取り付けられている。ベットサイドには小さなテーブル。向かいの壁には、ハンガーがかかっていた。整然とした生活感のない部屋。誰が見ても、一目瞭然だった。この部屋に猪口はいない。

「荷物もねぇみたいだな」

 秋葉が呟くと、「もしかして、逃げた?」と、あかねが頬を引き攣らせる。

「そうよ。絶対逃げたのよ! 探しましょう!」
「ダメです!」

 息巻いた笹崎に、大声を出して田中が止めた。びっくりして田中を見つめたのは笹崎だけではなかった。全員が田中に視線を集中している。それほど、田中の言い方には本気が窺えた。

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