怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「本当に辛いなら、あたしに連絡してくるはずだしね」
「はあ? 何言ってんだ。俺だろ」
「バカ言わないでよ。私でしょ」

〝由希に一番好かれてるのは私〟論がギャーギャーと始まり、呉野はほっとしたと同時に、呆れながら片手でおでこを押さえた。

「まったく。うるさいやつらです! とにかく、ぼくはもう金輪際、お前たちとは関わらないですからね!」

 踵を返そうとした呉野に、要がからかうように追いすがる声音を上げた。

「そんなこと言わないでよ~。子犬に追いかけられてすっころんだところを助けてあげだじゃないのよ。子犬に追いかけられて号泣したなんて知られたくないから入院の理由は黙ってていう頼みだって利いてあげたのに~」
「――っ! よ、よよ吉原っ!」
「え!? それで入院したんですか?」
「ハハハッ! いかにも呉野先輩らしいな!」
「ああっもうっ! 吉原に関わると本当にろくでもないです! 入院先の病院でおかしな話も聞いちゃうですし! 本当に最悪です! ぼく、もう帰ります!」

 憤慨しながら踵を返した呉野の背に、要は鋭い声をかけた。

「ちょっと待ってください。先輩。今、なんて言いました?」

 呉野はぎくりと肩を竦め、小さく振り返る。さあっと血の気が引き、薄っすらと引きつり笑いを作る。おもむろに席を立ち、近づいてくる要を見た。

「な、なんでもないです! 何も言ってないです!」
「いや。嘘だろ。バレバレだろ。声ひっくり返ってんぞ」

 秋葉の呟くようなつっこみを無視して、呉野は前へ向き直った。目を白黒させた呉野の肩に静かに要が手をかける。華奢な肩が大きく震えた。

「く~れのちゃん♪ 洗いざらい吐きましょうねぇ? おかしな話ってなんだ?」

 要の瞳が鋭く光る。

「あ~あ……。こういう時のこいつはしつこいっすよ先輩」
「もう。なんでそんなになんでも知りたがるのかしらね。要は」

 あきれた視線を送るあかねと秋葉をスルーして、要は呉野の肩口を引っ張り、教室へと引き入れた。

 *

「ぼくは、思い出したくもないんです! その話も吉原の話と同じくらい怖かったんですから!」
 今にも泣きそうになりながら、呉野は机に拳を叩きつけた。

「そんなことくらいで、あたしが諦めるとでも思ってるのかな。呉野ちゃんは?」

 にやりと口の端を持ち上げた要に、呉野は小さく返事を返す。

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