怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「本当に大丈夫?」

 振り返った要に、由希は無理をして笑って見せた。要はため息をついて、ドアを更に開く。ジャブダル達を招き入れた。

「じゃあ、どうぞ」
「あ、ああ」

 入室しようとしたとき、「どうかしたんですか?」と、田中が階段から顔を覗かせた。

「あなたも入って」
「え?」

 首を傾げた田中に、要は顎を跳ね上げて指示をした。

 *

「寝てるときに、急に苦しくなって。体が動かなくなって。でも、首だけは動いたし、閉じてるはずなのに目が見えてるみたいに光景が浮かんで来て。男……なのかな? それとも女性なのか、それは分からないんだけど、影がやって来て」
「影?」

 尋ねた笹崎に相槌を打ち、由希は続ける。

「でも段々、その人が窓の方に近づくたびに、輪郭がはっきりして来て。その人、マントとお面をしてた」
「え?」
「どんな?」

 小さく驚いた田中の呟きは、要の質問で掻き消えた。

「マントは黒い布。結構薄っぺらい、安物っていう感じだけど、全身が隠れるほど長くて、お面は、よくある……なんて言うんだろう。女の人っぽい、笑ってる――」
「おかめ?」
「そう。それ」

 言い当てられて、由希は人差し指を軽く振った。途端に、要の顔が曇る。由希に少し、不安が過ぎった。

「……どうして分かったの?」
「大島さん」

 その名前が出た瞬間、空気に棘が入ったのを誰しも感じた。

「大島さんが荒らしや仮面っていうティーチューバーだって言ったでしょ? 彼女が画面上に現れるときの衣装がそれなのよ」
「じゃあ、大島さんの悪霊ってこと?」

 搾り出すように笹崎が呟いた。

「……もうイヤァ! なんなの、もう帰りたい!」

倒れ込むようにベットに上半身を埋める。

「泣くなら廊下で泣いて。話が進まない」

 要は冷たく言い放って、

「で、秋葉達に何があったの?」
「え? 彼女達に何かあったんですか?」

 田中が割り込んで来たが、真剣な眼差しで自分を見つめる要から由希は目を離せなかった。

「そのお面の人が、あかねちゃんが寝たふりをしてるのに気づいて、あかねちゃんをパソコンで殴って殺そうとしたの。腕に当たって、あかねちゃん叫んで……そしたら、秋葉ちゃんの上に、視えたの」
「何が?」
「女の子」
「……え?」

 田中がぽつりと呟いた。

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