怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
第五章
「ああ~痛い! 乙女の柔肌がぁ……!」
あかねは嘆きながら膝小僧を擦った。
「そんぐらいで済んで良かっただろ」
「秋葉はなんで、擦り傷少々で済んでんのよ」
あかねは秋葉に白けた視線を送った。
「塩少々みたいに言うな」
あかねは殴られた腕に加え、転んだときに負った肘の擦り傷、そして崖から落ちたときに足首を強かに打ち、太ももに大きな擦り傷が出来ていた。だが秋葉は脚と腕が少し岩肌に擦っただけで、軽い擦り傷があるだけだ。
あかね達が落下した崖のすぐ下には、岩棚があった。彼女達は運良くそこに落ち、一、五メートル程の高さから飛び降りた状態で済んだ。崖の上部が出っ張っているため、岩棚は上から少し覗いたぶんには隠れていてその存在に気づくことはないが、あと一ミリ落下場所がずれていたら彼女達は遥か下の地面に激突していた。
たまたま秋葉の足先が岩棚に触れ、野生の勘と持ち前の運動神経で無意識に身体を捻り、持っていたノートパソコンの重さが回転を手伝って、転ぶように岩棚の奥に放り出された。あかねはそれにつられ、岩棚に上半身を入れたが、下半身が投げ出された。そこを、タイミング良く秋葉が引っ張ることで事なきを得た。が、代わりにあかねは手酷い擦り傷を負い、足首を岩壁に強打した。
「でも、命が助かって良かった。本当にありがとう。秋葉」
「なんだよ。しおらしいな」
あかねは丁寧に頭を下げた。秋葉はなんだか照れくさくて茶化したが、顔を上げたあかねは真剣で、そしてどこか張り詰めていた。
「あの人、人間で良いのよね?」
「お前を襲ったやつ?」
そう、とあかねは頷く。途端に顔が曇った。秋葉は遠慮するように、
「多分、人間だろ」
「でも、途中まで、とても人とは思えなかった」
ぞっとした悪寒があかねを包む。
「……確かにな」
秋葉が相槌を打った。今まで生きてきた中であんなものは見たことがなかった。人の形をした影のようなもの。そしてそれが、いきなり人間へと変わる。そして、もうひとつ。
「要達は私が悲鳴を上げても起きなかったのに、秋葉は良く起きれたわね。アンタ、一番寝てそうなのに」
起きるならむしろ要だと思ったと、あかねは心の中で付け足す。秋葉は真剣でありながら、どこか怪訝な顔つきであかねに振り返った。
「それがさ。俺があお向けで寝てたら、女の子が乗っかってきたんだよ」
「はあ?」
「小学生くらいの子がさ。青白い顔で、なんか全身擦り傷だらけで。その子が突然、燃え出したんだよ」
「……え?」
「で、びっくりして起きた。そしたらお前が襲われてたから、なんか無意識にな」
「……ありがとう」
「うん」
「でも、それって大島さんのことが夢に出てきたんじゃない?」
「かも知れねぇな」
秋葉がそう返すと、二人はしばらく黙り込んだ。
「そのパソコン、無事なの?」
あかねは嘆きながら膝小僧を擦った。
「そんぐらいで済んで良かっただろ」
「秋葉はなんで、擦り傷少々で済んでんのよ」
あかねは秋葉に白けた視線を送った。
「塩少々みたいに言うな」
あかねは殴られた腕に加え、転んだときに負った肘の擦り傷、そして崖から落ちたときに足首を強かに打ち、太ももに大きな擦り傷が出来ていた。だが秋葉は脚と腕が少し岩肌に擦っただけで、軽い擦り傷があるだけだ。
あかね達が落下した崖のすぐ下には、岩棚があった。彼女達は運良くそこに落ち、一、五メートル程の高さから飛び降りた状態で済んだ。崖の上部が出っ張っているため、岩棚は上から少し覗いたぶんには隠れていてその存在に気づくことはないが、あと一ミリ落下場所がずれていたら彼女達は遥か下の地面に激突していた。
たまたま秋葉の足先が岩棚に触れ、野生の勘と持ち前の運動神経で無意識に身体を捻り、持っていたノートパソコンの重さが回転を手伝って、転ぶように岩棚の奥に放り出された。あかねはそれにつられ、岩棚に上半身を入れたが、下半身が投げ出された。そこを、タイミング良く秋葉が引っ張ることで事なきを得た。が、代わりにあかねは手酷い擦り傷を負い、足首を岩壁に強打した。
「でも、命が助かって良かった。本当にありがとう。秋葉」
「なんだよ。しおらしいな」
あかねは丁寧に頭を下げた。秋葉はなんだか照れくさくて茶化したが、顔を上げたあかねは真剣で、そしてどこか張り詰めていた。
「あの人、人間で良いのよね?」
「お前を襲ったやつ?」
そう、とあかねは頷く。途端に顔が曇った。秋葉は遠慮するように、
「多分、人間だろ」
「でも、途中まで、とても人とは思えなかった」
ぞっとした悪寒があかねを包む。
「……確かにな」
秋葉が相槌を打った。今まで生きてきた中であんなものは見たことがなかった。人の形をした影のようなもの。そしてそれが、いきなり人間へと変わる。そして、もうひとつ。
「要達は私が悲鳴を上げても起きなかったのに、秋葉は良く起きれたわね。アンタ、一番寝てそうなのに」
起きるならむしろ要だと思ったと、あかねは心の中で付け足す。秋葉は真剣でありながら、どこか怪訝な顔つきであかねに振り返った。
「それがさ。俺があお向けで寝てたら、女の子が乗っかってきたんだよ」
「はあ?」
「小学生くらいの子がさ。青白い顔で、なんか全身擦り傷だらけで。その子が突然、燃え出したんだよ」
「……え?」
「で、びっくりして起きた。そしたらお前が襲われてたから、なんか無意識にな」
「……ありがとう」
「うん」
「でも、それって大島さんのことが夢に出てきたんじゃない?」
「かも知れねぇな」
秋葉がそう返すと、二人はしばらく黙り込んだ。
「そのパソコン、無事なの?」