怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 とりあえず目に付いたパソコンを指差す。ノートパソコンの端はひしゃげているが、崖から落ちたときにキズは負っていなかった。転げ落ちるように岩棚に突入した際、秋葉の胸に抱えられていて、地面に接触することはなかったからだ。秋葉は持っていたパソコンをじっと見つめた後、首を傾げた。

「さあ? 電源つけてねぇから分かんね」
「なんで持って来ちゃったのよ?」
「意味はねぇよ。なんか、咄嗟にだよ」

 嘘偽りはない。秋葉はそういうやつだと、あかねは小さくため息をつく。

「貸して」
「なんで?」

 訊きながらも秋葉はあかねにパソコンを渡した。あかねは電源ボタンを押した。

「あいつがこれを何故持ち去ろうとしたのか、分かるかも知れないでしょ」
「ああ、そっか」

 あかねが呆れて首を振る間に、パソコンは起動し始める。

「お願いだから、ちゃんとついてよ」

 祈りが通じたのか、パソコンはちゃんと起動した。だが、画面はロック画面へ切り替わってしまった。

「ああ~。そっか、要のだもんね。パスワード必須かぁ!」

 ガッデム! とあかねは頭を抱えた。

「とりあえず適当に入れてみたら良いんじゃね?」
「適当にねぇ……」

 あかねは呟きながら、要の生年月日を入力する。だが、不正解だった。

「じゃあ、刑事やってるお兄さんいたよな?」
「でも生年月日知らないし、要よ? お兄さんのってことはないでしょ」
「……だな。とりあえず、俺らの誕生日は?」
「今やってる」

 愛想無く言いながら、あかねは由希から順に生年月日を打って行くが、由希のものも秋葉のものも、自分の生年月日でもパスワードは合わなかった。

「う~ん。じゃあ、なんだろう?」

 頭を捻るあかねに、秋葉は少し真剣な声音で言った。

「ご両親の命日は?」

 あかねは俯いていた顔を跳ね上げた。

「そうね……」

 呟いて、命日を打ち込んで行く。エンターキーを押すと画面が切り替わり、デスクトップ画面になった。アイコンが二列あるだけの、すっきりとした画面の壁紙は、由希が留学する直前に四人で教室で撮った写真だった。

「なんか、ほんと、あの子って可愛いとこあるのよね」

 ぽつりと零れた言葉を秋葉は拾った。

「いつも人のことからかうけど、憎めないんだよな」
「そうね」

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