怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 いづれにせよ、雨が降ったら証拠が流されてしまう。要はそう考えて、血のついた葉っぱを千切って、ポケットから出したハンカチにそっと包んだ。

「村へ下りられたら、これが猪口の血なのか、警察で調べてもらわないと。警察に聴取されたって言ってたし、データベースにDNA残ってるかも」

 そう淡々と独りごちて、ポケットにハンカチをしまう。
 それから、要はペンションの周りを秋葉とあかねの名を呼びながら回ったが返事は無く、ペンションに戻るといったん、由希の様子を確認した。

 由希はすやすやと寝息を立てて寝ている。要はほっと息を漏らし、猪口の部屋へ向った。何か見落としはないだろうかと入念に観察したが、特に変わった様子はない。
 要はがっくりと肩を落としつつも、他の部屋も見て回った。

 最初に向ったのは、猪口と同様一階の三号室。大島の部屋だ。三号室の間取りは猪口のいた二号室と大差はない。

 だが、私物はもちろん残されていた。要は無遠慮にテーブルに置いてあるカバンや、引き出しの中身を確認して行く。

「おかしいな」

 要は頭を掻いた。もう一度、出した中身を確認する。おかめのお面、薄いマント、上着が数枚、下着も何着か替えがあり、ズボンは一着。歯ブラシ、化粧道具、化粧水、あるのはそれだけだ。

「なんで、スマホがないんだ?」

 要の推理では猪口と大島は手を組んでいた。あのとき、要は嫌々スマホを大島に預け、大島は台所へ運び、それが全て水につけられ故障した。

 大島と猪口がドッキリを仕掛け、極限まで怖がらせるために、電話線を切断し、スマホという連絡手段も断ち、パニックに陥った様をビデオカメラが録画し続ける。

 それこそが、荒らしや仮面に相応しいゲスで、卑劣な動画であったはず。でなければ、電話線を切り、スマホを壊した理由が見つからない。

 要が荒らしや仮面の動画を見た限り、荒らしや仮面という人物は大変卑怯だが、頭の切れる人物という印象だった。そんな人間が万が一を考えないわけがない。

 もし、放った火が想像以上に燃え広がった場合、救急車を呼ぶ手立てを全て断つような愚かなまねはしないだろう。まあ、実際は燃え広がりすぎて死に至ってしまったわけだが、と要は皮肉混じりにふと笑う。

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