怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「でも、ここを離れれば大丈夫なんじゃないのか?」
「ここを離れても、田中は大島も猪口も殺す計画止めなかったでしょ。ここを離れて解決するなら、田中はタピオカミルクティに睡眠薬なんか入れなかったよ。まあ、彼の場合、自主的に殺したいと思ってたからかも知れないけど」

 要は一息ついて、腰に手を当てた。

「警察に捕まえてもらうのは、上河内さんを悪霊から解放してからにしたかったのよね」
「わたしがやってみるって話をしたんです。出来るかどうか判らないけど、アレを祓ってみるって」

「そのためには、黒い煙とやらに出てきてもらいたかったわけ。で、推理して田中を追いつめようと。まあ、田中に憑いてるって確信がなかったから、それを確かめるためってのもあったけど。……でも、まさかジャブダル内場が祓える人だなんて、気づかなかったわぁ……。だって、あの人、全然幽霊視えてなかったっぽいんだもん!」

「だね。わたしも気づかなかった」
「知ってたら、こんな苦労しなかったのになぁ」

 頭の上で腕を組んで身体を伸ばすと、要は腕を一気に離した。

「まっ、推理披露、楽しかったから良いけど」

 じわっと、全身に血が巡る。疲れていた身体が、少し楽になった気がした。そこに、「はい」と由希が要がばら撒いた紙を渡した。

「集めてくれてたの?」
「うん。これが警察に渡ったら、要ちゃん大変でしょ?」
と、こっそりと耳打ちする。

「サンキュー」
 要は笑って、

「由希、幽霊はまだここにいるの?」
「黒い煙の人はいない。完全に祓われたのかも知れないけど、戻ってきてないだけかも知れない。それは分からない。でも、大島さんはいるよ」
「どこに?」

 由希は視線を階段へやった。そこには、大島が虚ろな目で、誰のことも映すことなく佇んでいた。

「階段のところ。座って、ぶつぶつ呟いてる」
「なんて言ってるの?」
「私は悪くないって。自分の罪を否定してる」
「そっか……。じゃあ、一生ここから出られないね」

 要は軽い口調で言ったが、由希にはとても冷たく感じられた。そこに、同情の余地は一切無かったからだ。

「そうだね……」

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