怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「え?」
振り返った由希に、
「ほら、上河内さんとジャブダルさんが言ってたじゃない。猪口に騙されて、そうやって死んだ人がいるって」
「ああ……」
由希も思い出して呟いた。
「全部、繋がってたんだね」
「だね」
要と由希はペンションを仰ぎ見た。あんな惨劇があったとは露ほどにも思えないほど、清閑だった。
「とにかく、もうこんな怖いところ出るですよ。沢松と澤田も病院で待ってるですから!」
「だね。帰ろう」
「そうだね」
三人はほっとした表情で笑い合った。それを見届けて、
「送ってくよ」
「アニは仕事しろ」
「ここは富山県警だから、俺の出る幕なしなの。さあ、どうぞ」
想一朗はパトカーの後部座席のドアを開けた。要、呉野、由希の順で乗り込んで行く。想一朗はドアを閉めると、運転席へ滑り込んだ。
「さあ、帰るぞー」
意気込んで、発信させる。由希は、何気なくペンションを振り返った。二階の、八号室の窓から、痩せて頬のコケた男が外を眺めている。彼は虚ろな目で、ブツブツと動かしていた唇を止めると、不意にべえっと舌を出した。が、そこにはあるはずの舌がない。
車が門を出るころには、彼は黒い煙になって消えた。
彼もまた、想いに囚われたままだ。