乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~

4.わたくしが、ジャファルさまの妻?

 ローゼマリアの喉が、悔しさでぐっと鳴る。
 彼ならどうとでもなると言わんばかりの物言いに、つい言い返したくなる。

「あなたの手には……負えるのですか……?」

 救世の聖乙女アリスのためにだけに廻る、この歪な世界で――?
 ローゼマリアが疑わしげな目でそう問いかけると、ジャファルが不敵な笑みを浮かべた。

「当然だ。この世のすべては、金の力でどうにかなる」

「は……なんて……横暴な……」

 傲慢不遜とも傍若無人ともとれる発言に、ローゼマリアは呆気にとられてしまう。
 しかし彼らしいとも思える力強い言葉に、身体の力が抜けていく。
 自分が異常に気が昂ぶっていたのだと、やっと自覚できる。
 そんなローゼマリアの頬を、ジャファルがそっと撫でてきた。

「あ……」

 モブ獄卒兵に触れられたときは、全身の皮膚が引き攣るほどおぞましかったのに。
 ジャファルの指はまったく違う。優しく、そして労りを含んでいる。

「落ち着いたか?」

「……少しだけ」

 疑いがすべて晴れるわけではない。彼が両親を見捨てると言ったのは間違いないのだから。
 もしかしたら、その言葉に彼なりの意味があるのかもしれない。
 そう考え、直情的にならないよう、言葉を選んで彼に問いかける。

「わたくしの次に……お父さまとお母さまを助けてくださる……?」

 そう呟きジャファルの目を覗き込むと、彼の目が真っすぐにローゼマリアだけを見つめていることに気がつく。

「ああ。約束しよう」

 もう少しだけ、彼を信じてもいいのかもしれない――
 ローゼマリアは心が平静になるように、深呼吸をなんども繰り返した。

「わたくし、お父さまとお母さまをお助けするお手伝いがしたいです。邪魔でしょうか?」

 このまま彼に任せてもいいが、それではローゼマリアの心が不安に苛まれてしまう。
 できることなら両親の救出を、なにかしら手伝いたい。そう考えた。
 するとジャファルがニヤリと意味ありげに笑い、こんな提案をしてきた。

「私と取引しないか? ローゼマリア」

「取引?」

 居丈高なジャファルの面持ちに、剛毅さが混ざる。

「あなたの冤罪を私の手ではらしたいが、どうやらそれをされると困る連中が、なりふり構わず躍起になって動いている。それも頭の悪いやり方でな。低脳の考えることがあまりに突拍子過ぎるので、予測できなくてやりづらい」

 低脳というのは、おそらくアリスと宰相一派だと思うが、ジャファルが口にするとなかなか辛辣で、思わず笑いそうになる。

「ひとまずあなたを連れてミストリア王国を脱出したいのだが、それには身分証明書が必要となる」

「身分証明書……?」

「ああ。国境を出るための」

「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」というゲームを遊び倒した前世を持つローゼマリアだが、ゲーム中ミストリア王国以外でイベントなど起きなかった。
 そのせいか、国境だの身分証明書だのというワードに、きょとんとしてしまう。

「ただし、私の妻……としてだがな」
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