乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~
第六章 は? 親衛隊長って、脳まで筋肉なあなたのことですか?

1. 朝――

 ローゼマリアが目を覚ましたとき――

 そこは精緻な組み木の天井と、しっかりとした四柱の天蓋付きベッドの中であった。
 まだ部屋は薄暗い。カーテンの隙間から弱々しい朝陽が差し込んでいる。

「あ……わたくし……」

 気だるげに髪をかき上げながら、ゆっくりと上体を起こす。
 知らないうちに、薄手のシルクガウンを着せられていた。

 身体はそれほど汚れてはいないようだが、ところどころべたつくような気がする。
 肌が汗でしっとりと濡れていて、気持ちが悪かった。
 それでも金髪はクルクルと縦ロールになっているから、こういうところも悪役令嬢補正なのだろうかなんて考えてしまう。

「……考えをまとめないと、事態がよくわからないわ」

 思えば悪夢のような婚約パーティは一昨日のことだというのに、まるで遠い過去のことのように思えてしまう。

 婚約者だったユージンに糾弾され、アリスと宰相たちに陥れられ。
 無実の罪で牢獄に入れられ、モブ獄卒兵に襲われ。
 オークション会場で売られそうになったところを、間一髪ジャファルに助けられた。

 国外へと脱出するには、ジャファルと結婚することが一番早いと言う。
 ローゼマリアが無事にアリスたちの魔の手から逃れられたら、次に両親を助けてくれると彼は約束してくれた。

 それで初夜だと抱かれてしまったのだが――

 広い寝室のどこにも、ジャファルの姿はなかった。
 隣室へ続く扉から、わずかだが光が漏れる。
 ローゼマリアはベッドから降りると、ラグの上に置かれていた花刺繍入りバブーシュに爪先を差し入れる。

 下肢に力が入らないが、ゆっくりと窓枠に近づいてカーテンに手をかけた。
 隙間から、そっと外を確認する。
 早朝だというのに、中庭にいくつもの人影を目にして首を傾げてしまう。

(こんな時間に散歩? このホテル、やけに早起きする客が多いのね)

 カーテンを開けようとしたら、隣室へと続く扉が突然開き、ジャファルが姿を現した。

「ローゼマリア。カーテンを開けてはいけない」

「ジャファルさま?」

「アリス一派の送り込んだ連中が、こちらを窺っている。不用意に姿を見せて飛び道具でも使われたら面倒だ。こちらにきなさい」

「は、はい」
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