こんにちは、ーー。
*
*
*
「だってさ、夏じゃん?夏と言ったら肝試しだろ」
「ばか。夜の学校なんて危ないし、先生に見つかったら終わりだよ」
「とか言ってさあ、怖いだけなんじゃないの?度胸ねえなあ。ナツキは」
ナツキとユウキはいつも通り、他愛ない言い合いをしている。
仲がいいって、いいな。私はユウキとそんなに言葉をぶつけあったりしないから。
「アオイもなんとか言ってよ。笑って見てないでさ」
ナツキはシャーペンをカチカチと鳴らして、芯を出したり引っ込めたりしている。イライラしてる時によくやる癖だ。
「あ、ごめん。二人のやりとりが微笑ましくてつい」
「なあなぁ。アオイはどうよ?夜の学校で肝試しとかさ、青春ぽくていいと思わねー?」
夜の学校なんて、正直怖いし来たくて来ようとは思わない。
でもユウキと一緒ならどんなことでも楽しめてしまう気がする。
“青春”は魔法の言葉だ。
その一言で、大抵のことは甘酸っぱい思い出として処理されてしまう。たとえ、禁止されているようなことでも。
「うん。夏らしくていいんじゃないかな」
ほら。私の中に芽生えた恐怖も“青春”という名の魔法にかかってしまえば簡単に消える。
先生に見つかったら、とか、そういう些細な心配すら感じなくなる。
好奇心に塗りつぶされる。
「あんたね。バカユウキに合わせる必要なんてないんだよ。嫌なことは嫌って言いな?」
ナツキは眉をひそめてわたしを見る。
ナツキはしっかり者だから、なんでもはっきりと言う。
自分の意見が簡単に言葉にできるのって、少し羨ましい。
私はふるふると首を振ってみせる。
ナツキは少し困ったような顔をして「アオイもだいぶバカに染まったわね」と吐き捨てた。
私もユウキも、ナツキを振り回してばっかりだ。
「付き合ってらんない。勝手に二人で校舎探検でもなんでもしなよ」
ナツキは乱暴にカバンを背負うと、ガラガラと教室の扉を開けて足早に帰ってしまった。
「ちぇっ、なんだよあいつ」
ユウキは「つまんねー奴」と呟いて伸びをした。
太陽が西へ傾いて、辺りはすっかりオレンジ色に染まった。
「じゃあさ。また学校来るのだるいしさ、夜まで学校に居座っちゃおうぜ。どっかの教室隠れてさ、日直の先生をやり過ごすんだよ」
「あは。なんか悪いことしてるみたい」
「ははっ、そうだよ。悪いことしてんだよ俺たち」
ユウキはいたずらっぽく笑う。にしし、と八重歯が顔を出す。
「だから先生に見つかっちゃいけねえ。これは命がけ……いや、俺たちの成績評価をかけた本気のかくれんぼなんだぜ」
「うん、わかった。絶対に見つからないようにする」
二人で指切りげんまんをする。
小指の先からユウキの熱が伝わって、心臓が高鳴る。
「俺さ、絶対にみつからねぇ作戦考えてんだ。こっちきて」
ユウキはカバンを肩にかけると、私の手を引いて走り出した。
私たちはまだ知らなかった。
この判断が、この好奇心が。
全てを壊す元凶になるなんて。
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「だってさ、夏じゃん?夏と言ったら肝試しだろ」
「ばか。夜の学校なんて危ないし、先生に見つかったら終わりだよ」
「とか言ってさあ、怖いだけなんじゃないの?度胸ねえなあ。ナツキは」
ナツキとユウキはいつも通り、他愛ない言い合いをしている。
仲がいいって、いいな。私はユウキとそんなに言葉をぶつけあったりしないから。
「アオイもなんとか言ってよ。笑って見てないでさ」
ナツキはシャーペンをカチカチと鳴らして、芯を出したり引っ込めたりしている。イライラしてる時によくやる癖だ。
「あ、ごめん。二人のやりとりが微笑ましくてつい」
「なあなぁ。アオイはどうよ?夜の学校で肝試しとかさ、青春ぽくていいと思わねー?」
夜の学校なんて、正直怖いし来たくて来ようとは思わない。
でもユウキと一緒ならどんなことでも楽しめてしまう気がする。
“青春”は魔法の言葉だ。
その一言で、大抵のことは甘酸っぱい思い出として処理されてしまう。たとえ、禁止されているようなことでも。
「うん。夏らしくていいんじゃないかな」
ほら。私の中に芽生えた恐怖も“青春”という名の魔法にかかってしまえば簡単に消える。
先生に見つかったら、とか、そういう些細な心配すら感じなくなる。
好奇心に塗りつぶされる。
「あんたね。バカユウキに合わせる必要なんてないんだよ。嫌なことは嫌って言いな?」
ナツキは眉をひそめてわたしを見る。
ナツキはしっかり者だから、なんでもはっきりと言う。
自分の意見が簡単に言葉にできるのって、少し羨ましい。
私はふるふると首を振ってみせる。
ナツキは少し困ったような顔をして「アオイもだいぶバカに染まったわね」と吐き捨てた。
私もユウキも、ナツキを振り回してばっかりだ。
「付き合ってらんない。勝手に二人で校舎探検でもなんでもしなよ」
ナツキは乱暴にカバンを背負うと、ガラガラと教室の扉を開けて足早に帰ってしまった。
「ちぇっ、なんだよあいつ」
ユウキは「つまんねー奴」と呟いて伸びをした。
太陽が西へ傾いて、辺りはすっかりオレンジ色に染まった。
「じゃあさ。また学校来るのだるいしさ、夜まで学校に居座っちゃおうぜ。どっかの教室隠れてさ、日直の先生をやり過ごすんだよ」
「あは。なんか悪いことしてるみたい」
「ははっ、そうだよ。悪いことしてんだよ俺たち」
ユウキはいたずらっぽく笑う。にしし、と八重歯が顔を出す。
「だから先生に見つかっちゃいけねえ。これは命がけ……いや、俺たちの成績評価をかけた本気のかくれんぼなんだぜ」
「うん、わかった。絶対に見つからないようにする」
二人で指切りげんまんをする。
小指の先からユウキの熱が伝わって、心臓が高鳴る。
「俺さ、絶対にみつからねぇ作戦考えてんだ。こっちきて」
ユウキはカバンを肩にかけると、私の手を引いて走り出した。
私たちはまだ知らなかった。
この判断が、この好奇心が。
全てを壊す元凶になるなんて。