星空ラブソング
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回想から現実へ戻ってこいと私に告げるかのように、
授業終わりのチャイムが鳴った。
帰りの準備をしようとしていると、隣の席に座っていた女性が私に声をかけた。
この大学には80代の学生がいて、私たちと同じように学んでいる。
この人の名前は美喜江(みきえ)さん。
4月から毎週火曜日にある、この経済学概論を一緒に受講している。
席は自由席で、美喜江さんとはたまたま同じ最前列で受けているけれど、耳の調子によってどうしても聞き取れないことがあるらしく、その際は私がこうして耳になっている。
「あの、おかえりの準備中にごめんなさいね。今日もどうしても聞き取れないところがあって教えてもらえないかしら」
「大丈夫ですよ。どこですか?」
「ここの少し後なんだけど・・・」
私は、美喜江さんのノートを覗き込み、自分のノートと照らし合わせて確認し抜けてるところを伝えた。
「ありがとう。助かったわ」
ゆっくりとした口調でそう言って、ニッコリと笑う美喜江さんの顔が、向日葵みたいで眩しくて、私は幸福感に包まれた。
午後18:30頃に帰路についた。
不思議と縁がある日らしく、駅の改札口で昼間のあの職員の姿を見つけてしまった。
改札横に設置されている洋菓子屋さんのショーケースを眺めていて、何故か遠めでもあの人だとわかってしまった。
私は、歩く速度を少しだけおとして、あの人の横の改札を目指していると、買うものを決めたようでショーケースを指差して店員に声をかけた。
次の瞬間、店員に向けた微笑を浮かべた横顔が、学内では見たこともない表情だったから私は一瞬目を疑った。
学内にいるときもあんな感じに愛想よくしてたらマシなのに。
“ヤな奴”という言葉が、咄嗟に頭の中を浮遊して私は再び歩く速度をあげた。
そして、お会計中の職員の後ろを風のように通り過ぎた。