星空ラブソング
しかしその日を境に、職員と学内で何度もすれ違うようになった。

名前を知らないから心の中で、‘無愛想な職員’と呼ぶことにしているが、人間は姿を見る回数が増えると知らないうちに意識してしまうことがあるようだ。

5月が中旬に差し掛かったある日のことだった。

空きコマに10階の自習室に行こうとエレベーターを待っていると無愛想な職員が現れ、エレベーターホールで2人きりになった。

急いでいるのか、私よりもあとにきたのに前に立ちふさがって、左右の脇腹に手を添えながら階数表示を見上げている。

このまま手を伸ばせば、触れられそうなくらい近くで、上下している彼の肩の動きから少し早い呼吸が伝わってきそうだった。

授業中だからかあたりは静まり返っていて、まるで私たちしかいないような感覚になった。

エレベーターが到着し、先に乗り込んだ職員と目が合い小さく会釈して私も乗り込んだ。


「何階ですか?」と小さな声で聞くから私は行き先を告げた。


「10階でお願いします」


細長い指が10の数字を押してエレベーターの扉もしまった。

私は、沈黙の空気を切るように口を開いた。

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