星空ラブソング

「新聞見ました?」


急に聞いてくるから一緒何のことだろうと思って首をかしげると、「取材受けてくれたの」と少し大きめの声で続けた。

8月上旬に時任さんからメールで届いた取材の文章チェックを終えた。

もうすぐ刊行とは聞いていたけれど、この数日は、特別講義とアンケートで頭がいっぱいで忘れていた。


「あ!あれ、まだ見れてないです」

「そうでしたか。もう校舎に置いてあるからいつでも」


会話をすぐそばで聞いていた教務課の課長が笑顔で口を開く。


「読ませてもらったけど、良かったよ。新聞貰って近所の人にも沢山配ってね」

「あ、ありがとうございます」


メガネ姿で厳しい面持ちがトレンドマークの課長の表情と口調が、今日はなぜか柔らかくて驚きながら私は頭を下げた。

特別講義を陰で支えているのが教務課で、打ち上げ開始の定刻になり、代表して竹田さんが冒頭挨拶をすることになった。

何故か、私が緊張し始める。

「えー、皆さん4日間お疲れさまでした。講義を担当してくださった遠山(とうやま)先生も来てくださっているので、ぜひ交流を深めていってください。乾杯!」

『乾杯!』

竹田さんのよく通る低い声が音頭をとり、グラスが触れ合う音が響いて打ち上げの幕が上がった。

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