星空ラブソング
第二章
近づく距離
8月下旬、美喜江さんの家を初めて訪ねた。
美喜江さんは、5年前にご主人を亡くされて、今は高齢者向け施設の一般型ケアハウスで一人暮らしをしている。
一般型ケアハウスは、介護老人ホームとは違って、マンションのように個室だから、あまり気をつかわなくてよくて居心地がよいと美喜江さんは言った。
1LDKの部屋には、キッチンやユニットバスはついているけれど、希望によって同じ建物内にある食堂でご飯を食べたり大浴場を利用できたりする。建物の受付には、数名の職員さんも常勤されているから安心だ。
私が訪れた日は、食堂でお昼を食べてから、部屋に戻ってお菓子を食べながら話した。
テーブル上にショートケーキやクッキーやスイカ、まるでパーティみたいに色んなデザートが並ぶ中、何故かゆで卵もあった。
「美喜江さん、ゆで卵好きなんですか?」
「お隣の方がね、よく作ってくださるのよ。今日由依ちゃんが来ることを話したら、2人で食べてねって届けてくださったの。由依ちゃん、苦手じゃないかしら?」
「ゆで卵、好きなので嬉しいです」
「そう、良かったわ」
実家にいた頃、朝はゆで卵とトーストがお決まりだったことを懐かしく思い出す。
今は、朝ごはんには、なるべく豆を取り入れたくて、作り置きのトマトスープに豆を入れたものや豆ごはんを食べていて、ゆで卵を食べることはたまにになった。
美喜江さんと塩を振ったゆで卵を頬張った。