星空ラブソング
「いや、これあの、迷惑じゃなければ食べてください。豆好きだと須藤(すとう)さんからも伺っていたもので」
須藤さんとは、美喜江さんの苗字だ。
美喜江さんいつの間に私のことを三原君に話していたのだろう。
「豆大好物だからすごく嬉しいけど、本当にいいの?」
「ささやかですがノートのお礼です。受け取ってもらえると嬉しいです」
ただノートをみせただけなのに、こんなにありがたいお礼が返ってくるとは・・・。
私は、手の中にやってきた豆がゴロゴロ入っていそうなパンを見つめて、幸福感に包まれた。
「ありがとう」
「いえ、そんなに喜んでいただけるとは、きっとそのパンも幸せだって言っています。僕のほうこそありがとうございました」
三原君の表現の仕方が何だか面白くてつい笑ってしまった。
その時、視線の数十メートル先を歩く竹田さんの姿が目に入った。
ずっと、ずっと会いたかった人がそこにいる。
急に、竹田さんがいるところにだけスポットライトが当たったかのように、私の瞳はくぎ付けになった。
周りの雑踏が消えて、まるで静寂の中にただ一人放りだされたみたいな感覚だった。