星空ラブソング

こういう日に限って、再び竹田さんに会うことになってしまった。

廊下を歩いているとつま先で何かを蹴ったと思ったら、それは鍵で、さすがに置き去りにしておけないと思った。

教務課の窓口に忘れ物を届けに行く途中、自販機の上に何故か大きな黒いリュックを見つけてしまった。

誰が何のために、どうやってあんな高いところに置いたのだろうと不思議になってしまう光景だ。

ちょっと奇妙だったから、念の為窓口で伝えておくことにした。


カウンターで対応してくれた女性の職員が自販機のリュックのことを聞いた途端に口をへの字に曲げた。


「それは困るわね。
ねー、3階の自販機の上に怪しいリュック置いてあるみたい。
見てきてもらえない?」


女性は、背後でパソコンに向かう竹田さんに向けて言った。


竹田さんは即座に立ち上がり、私のところまで来て階数を確認してから小走りで行ってしまった。


通り過ぎた際に起きた風が、竹田さんの香りを儚く残した。


私は、窓口から見える階段を駆け上がっていくたくましい背中を見つめた。


きっと、良い父親なんだろうな。


チクリとした胸の痛みは、私の中でいつの間にか育っていた竹田さんへの思いを教えてくれるようだった。


やっと話せるようになりそうだったのになんだか悔しい。


行き場のないこの思いは無かったことに出来るだろうかと、自分に聞いてみたけれど、今すぐに答えを出せることではないことを私が一番よく知っていた。

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