最強お菓子職人は狙われます
第五章 十二月の和菓子たち

今は十月,秋の時期
俺は外を見ながら溜息を吐く
婆ちゃん爺ちゃん兄さん達に会いたいと
不意に思ってしまうのだ
「たまには和菓子でも作るかな」
と自分の本棚へ向かい本を取る
和菓子の本はこれ一冊しかないが分厚く季節によって分けられている優れもの
「吹き寄せ,錦秋かな」
まず先に
錦秋を作る
白餡三色の生地を丸く押し広げ,三色の中心に白餡を置き包み込む
キツく絞った濡れ布巾で茶巾に絞る
三色が交わる絞り口にするのがポイント
しっかりと絞り形を整える
これで完成だ
「し,次最後」
吹き寄せ
飾り菓子だが飾りつけるためならいいだろう
砂糖と寒梅粉を練り作る干菓子,食紅次第で自由自在に作れる色とりどりのもの
ボールに砂糖とぬるま湯を入れ指先で揉む様に練る
何故ぬるま湯かと言うと砂糖が溶けやすくなるからだ
寒梅粉を少しずつ加え混ぜる
濡れ布巾を被せ二、三十分休ませる
寒梅粉の粘りが出,生地が馴染むまで休ませるのだ
休ませたら生地を揉みなおし滑らかになるまで練る
それぞれ食紅で色をつけて平たく伸ばして境目を指でくっつけて,上からラップを斜めにずらしてかける
綿棒で縦方向に伸ばす
これを二回繰り返しグラデーションをつける
これで型でくり抜く
一日二日乾かして完成
俺は菓子を作った器具を片付けていると
「何でですの!」
と声が聞こえた
俺は何事かすら興味もなく片付けに専念する

こちらに近づいて来る足音
「ここが厨房ですのね!」
バンと音を立てて扉が開かれる
「あ?」
俺の不機嫌そうな声を無視して俺に近付く女
「貴女が神風?」
ニコニコと俺に微笑む女
「だったら何だ」
俺は無視して出て行こうとする

腕を掴まれた
「顔よしスタイルよし貴女!最高ね!」
俺に抱きつく女を引っぺがし睨む
「何の用で来たのか知らないが,邪魔だ」
女は固まり動かなくなる
俺は溜息を吐きながら去ろうとしたが女が泣きそうになったのを見て困った

「お前の用は何だったんだ?」
「和菓子を食べたくて………」
成る程な
ここなら作ってくれると思ったんだろう
馬鹿だな
「ほら,これやるから帰れ」
和紙に包んださっき作られたばかりの錦秋を渡す
女はキラキラとした目で俺を見る
「良いのですの?」
「やるから帰れよ」
それだけ言って去ろうと………出来ない
服を掴まれた
これは逃げられない
俺は渋々椅子に座り女が食べているのを見る
女は嬉しそうに見つめたあと一口食べた
「美味しい」
その顔は
とても綺麗で
女の俺ですら見惚れる

興味ないからすぐそっぽを向いたがな
「貴女!是非来てくださいな!」 
ガタンと音を立てて俺の方に来る女
「何処にだ」
この国の姫はうるさい
「私のパーティーに!」
パーティーだ?
「何故?」
「私のパートナーとして!」
こいつ本当にアホか!?
「俺は女だ!阿保!」
「女?知ってますわよ?」
知ってたんか
俺は溜息を吐き
「行かねぇ」
と即答した
「何故ですの!?」
何故って
「どーせ,専属の菓子職人とでも言うつもりだろ」
「う」
図星か
「そーゆーことなら帰れよ」
「ぅぅ」
「ほらこれ渡してやるから」
俺の手に持つ箱の中には十二月の和菓子達が並んでいた
女は嬉しそうに見つめた後俺を見る
「パーティーぐらいなら校長に言ってみろ,いい返事が来るかもな」
にこっと微笑み手を振る
女は帰り際
「私の名前はアンジェよ!」
と叫んだ
「おー,またな」
俺は冷たくあしらう
「何故そんなに冷たいのかしら!そんなところも好きよ!」
好きか
「おー,ん?」
好き?
おー
友達としてか?
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