言えなかった言葉 ~友達と同じ人を好きになって…
その頃 川村と同じように
千夏の行動も だんだん 積極的になってきた。
千夏は 総務課で 早苗より 1年先輩。
短大卒入社だったから 俺と同じ年だった。
俺が 総務課に 書類を持っていくと
いち早く 俺の姿を認めて 対応する千夏。
俺が 早苗と接触できる 数少ない機会さえ
千夏に 邪魔されて 早苗と話すことも できない。
用件が済むと 俺は 千夏の前から
逃げるように 立ち去るから。
早苗の姿を 見ることも できなかった。
昼間 俺は 営業に出ていて
社内には いないことが多いから
それ以上 千夏と接することも ないけど。
いくら俺が 早苗を 思っていても
川村が 告白した以上 俺は 何も言えないし。
早苗と 話したところで
どうにもならないけど…
川村と早苗が 親しくなればなるほど
俺から 早苗は 遠ざかる。
かと言って 俺は 千夏を 好きになれなかった。
千夏は 小柄で リスのような顔で
男性社員からは 人気があった。
千夏が 自分の可愛さを 武器にして
仕事でも 良いとこ取りを していることを
俺は 何となく 感じていた。
いくら 可愛くても そういう子には 惹かれない。
みんなが 千夏を チヤホヤするのに。
きっと 無関心な俺が
千夏は 許せなかったのだろう。
「寺内さん お疲れ様。」
営業から 戻った俺に
千夏が コーヒーを淹れてくれる。
「あっ。ありがとう。でも 飲みたい時は 自分で淹れるから。大丈夫だよ。」
俺は やんわりと 千夏の好意を 拒んだ。
千夏は 唇を噛んで 俯いたけど。
その表情さえ 計算のように 思えてしまう俺。
俺は 千夏に 絆されたりしない…
そんな俺を 早苗に わかってほしくて。
早苗は 俺のことなんか 見てもいないのに。