言えなかった言葉 ~友達と同じ人を好きになって…

「私… 加藤さんが 寺内さんのこと 好きって言うから。私 言えなくて。それで 川村さんと 付き合えば 諦められるかと 思ったけど。全然 無理で。川村さんのこと 傷つけちゃって。」

早苗は 俺の脇に立って 赤いブーツを握って言う。


「そんな… 俺が はっきり言わなかったから…?」

俺は 早苗を見上げて 込み上げる思いを 堪える。

「いいえ。もし あの時 寺内さんに 言ってもらっても 私 多分 応えられなかった。川村さんの気持ち 聞いてしまったから。だから… やっぱり あの時は 諦めるしか なかったんです。」

「俺 岩瀬さんが 辞めてから ずっと 連絡したかったけど。迷惑かもしれないって。連絡できなくて。でも ずっと 忘れられなくて。本当に すごく会いたかったんだ。」

「私もです。私も ずっと 会いたかった…」


俺は 立ち上がって 早苗を 抱き締めてしまった。

早苗は あんなに 川村を拒んでいたのに。


俺の背中に 腕を回して 俺に寄り添う早苗。


「ごめん。俺… 本当に ごめん。」


早苗の髪に 頬を寄せると

雨に濡れた髪から シャンプーの香りがした。







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