言えなかった言葉 ~友達と同じ人を好きになって…
「うん。相変わらずだよ。俺には もう興味を失くしたみたいで。何も言ってこないけど。」
「私 加藤さんが 苦手だったの。入社した時から ずっと。」
「わかるよ。早苗とは タイプが違うもんね。」
「加藤さんって 自分に自信があって。男の人は 自分の自由になるって 思っていたみたい。だから 雅也のことは 加藤さん 案外 本気だったと思うんだぁ。」
「えっ?どうして?」
「加藤さんに 告白されて OKしなかったのって 雅也が 初めてなんじゃないかな。」
「そうかな…?男がみんな 加藤さんみたいな人を 好きとは 限らないでしょう?」
「でも 告白されたら とりあえずは 付き合うんじゃない?」
「俺 ああいうタイプと 付き合うなんて 無理だな…人間的に 尊敬できないよ。」
「ウフッ。じゃぁ 雅也。私のことは 人間的に 認めてくれているの?」
「もちろん。早苗って 目立たない仕事も 丁寧にやっていたし。誰に対しても 公平な態度で 接していたじゃない?だから 安心できたんだ。」
「雅也も そうだよね?いつも 態度が一定で。安定していて。私 感情の起伏が 激しい人って 苦手だから。だから 川村さんと 上手くいかなかったのかも…」
「川村は 調子がいい時と 落ち込んだ時の差が 激しかったからな。でも俺 そこが川村の 良い所でもあると 思うんだ。素直で…」
「確かに 素直かもしれないけど。そういう人と 一緒にいると すごく ドキドキするよ。今日は 機嫌がいいかなって 気を使って。」
「でもさ。川村、早苗といる時は 優しかっただろう?」
「うん…それも 怖かった。最初は 優しくても 飽きられたらって 思うと。長く付き合うことは できないって思った。」
「そうかな…川村って 案外 一途だから。好きな人のことは ずっと大事にするんじゃない?」
「どうだろう。川村さん 仕事がうまくいかなくて 落ち込んでいた時 あったじゃない?あんな風に 職場でも 浮かれたり 落ち込んだりできる人って 自分に甘いと思うの。もし 結婚したら 上手くいかない時 家でも あんな風に 落ち込むわけじゃない?そういうのって 回りにとって すごく負担だよ?」
「そうだね…自分をコントロールすることも 必要だね。」
「雅也って 入社した時から いつも同じ態度で。誰に対しても 礼儀正しくて。すごく安心できる人だって 思っていたから…」
「へぇ…嬉しいなぁ。早苗が 俺のこと そんな風に 見ていてくれたなんて。」
「だから 加藤さんが 雅也のこと 好きって言ったとき 絶望したの。」
「ねぇ。じゃ 俺が 加藤さんの告白 断った時 嬉しかった?」
俺は 早苗の肩を抱き 顔を 覗き込んだ。
早苗は 照れた顔で 俺を見て 甘く頷いた。