思春期、夏【中学生日記】
 ある日の体育の時間だった。
 夏の期間、体育はプールでの水泳授業となる。基本的に運動神経の悪いオレは、泳ぎもあまり得意ではなかった。
 あの塩素消毒の匂い。それを思い起こすだけで、なにか全身に緊張感が走るのだ……

 憂鬱と緊張が入り交じる、重苦しい面持ちで授業に臨むオレ。
 泳ぎながらの息継ぎが、まだ上手く出来なかったのだ。意味もなく必死に、それこそ死ぬ思いで、ただただ水中に漂う……
 
 もしオレが普通に泳げていたのなら、クラスの女子の水着姿などを横目で盗み見ていたに違いない。だが正直、そんな余裕など全く無かった。


 そんなプールの授業も無事に終わり、さあ着替えようという時の出来事である。

「海パンのヒモが、ほどけない……」

 不器用に縛られた木綿のヒモ。その結び目は、濡れてしまったがために更に固くなり、ほどけなくなっていた。

 爪先は水にフヤけてしまい、まったく歯が立たない。この役立たずめ。時間だけが経過して行った。もはや何ともしがたい。

 ふと先生の顔が浮かんだ。
「助けて、パピコ先生……」
 追い詰められたオレの目は、必死に先生を探しだしていた。

 幸いパピコ先生は、まだプールにいた。
「しょうがない子ね」という表情を見せながらも、水着姿のままだった先生は、オレの求めに応じてくれた。

 ジャージの上着だけを羽織り、先生はオレの前に膝まづく。そして、濡れたヒモの解きほぐしに取りかかってくれた。
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