私のために、もう一杯
史郎が時間をかけてドリップしたコーヒーと、“とっておき”と言っていたケーキを給仕してくれた時には店内の客は半分まで減っていた。
「お待たせいたしました。どうぞ」
音を立てずに皿とソーサーを置く。こういう配慮も紗良がこの店を好きな理由の一つだ。
「いいえ。お客さん丁度帰る頃だったんですね」
「ええ。テーブル片付けて来ますので少しお待ちください」
コーヒーからはいい香りが立ち上る。カップも涼やかなブルーが基調のジノリで紗良の好みだ。ケーキはフルーツがぎっしり詰まっていてコーヒーと合う。
まだ熱いコーヒーをゆっくり口に含んで味わっていると、色んな疲れが薄れていくように思えた。
「お待たせしました……。あ、別に僕なんて待ってませんよね」
「いえ!あ……、お疲れ様です。コーヒーもケーキも美味しいです」
「良かった。コーヒーはエメラルドマウンテンといいまして、希少種なんです。たまたま手に入ったので。浅煎りだから酸味が強いけど、紗良さんの好みかと思ってご用意したんですが。お口に合ったようで良かったです。あ、ケーキもね、コーヒーに合わせたんですよ」
普段あまり饒舌ではない史郎が、コーヒーの話だと止まらなくなる。本当にコーヒーが好きなのだと分かって、聞いている紗良も嬉しくなった。
「カップもすごく素敵。コーヒーが入っているうちに写真撮っておけばよかった」
「写真、お得意なんですか?」
「まさかまさか……。素敵なものを写真に撮ってSNSにアップするの。今までも何度かこちらのコーヒーの写真アップしてるんですよ」
慌てて否定しながら、照れ隠しでスマホを操作していると、史郎は少し考えこんだあと自分のスマホを持ってきた。
「良かったら……、アカウント教えてもらえますか?」
「……え?」
史郎の思わぬ提案に頭が真っ白になるくらい驚いた。
「いえ……お店の写真をアップしてくれているとのことなので」
「へ、変なことは書いてないから大丈夫ですよ?」
「あ、いえいえ!そういう意味ではなくて……。ダメ、ですか?」
史郎がスマホを引っ込めようとしたので紗良は慌てた。
「ダメじゃないです!お願いします!」
紗良は勢い余って深々と頭を下げてしまった。他に客がほとんど残っておらず、紗良の定位置が店の奥だったため気づかれていないことが不幸中の幸いだ。
顔を上げると、同じく驚いたような史郎が、急にかしこまったようにスマホを操作し始めた。
「あ、ありがとうございます……。えっと、SNSってどれでしょう?」
紗良は自分が茜亭の写真をアップしているSNSを伝えた。史郎はそのSNSは使ったことがなかったらしく、紗良の前に座ってID登録操作を始めた。
客の動きを気にしつつ操作する史郎の姿を好ましく見つめながら、紗良は今の事態についていけずにいた。
「お待たせいたしました。どうぞ」
音を立てずに皿とソーサーを置く。こういう配慮も紗良がこの店を好きな理由の一つだ。
「いいえ。お客さん丁度帰る頃だったんですね」
「ええ。テーブル片付けて来ますので少しお待ちください」
コーヒーからはいい香りが立ち上る。カップも涼やかなブルーが基調のジノリで紗良の好みだ。ケーキはフルーツがぎっしり詰まっていてコーヒーと合う。
まだ熱いコーヒーをゆっくり口に含んで味わっていると、色んな疲れが薄れていくように思えた。
「お待たせしました……。あ、別に僕なんて待ってませんよね」
「いえ!あ……、お疲れ様です。コーヒーもケーキも美味しいです」
「良かった。コーヒーはエメラルドマウンテンといいまして、希少種なんです。たまたま手に入ったので。浅煎りだから酸味が強いけど、紗良さんの好みかと思ってご用意したんですが。お口に合ったようで良かったです。あ、ケーキもね、コーヒーに合わせたんですよ」
普段あまり饒舌ではない史郎が、コーヒーの話だと止まらなくなる。本当にコーヒーが好きなのだと分かって、聞いている紗良も嬉しくなった。
「カップもすごく素敵。コーヒーが入っているうちに写真撮っておけばよかった」
「写真、お得意なんですか?」
「まさかまさか……。素敵なものを写真に撮ってSNSにアップするの。今までも何度かこちらのコーヒーの写真アップしてるんですよ」
慌てて否定しながら、照れ隠しでスマホを操作していると、史郎は少し考えこんだあと自分のスマホを持ってきた。
「良かったら……、アカウント教えてもらえますか?」
「……え?」
史郎の思わぬ提案に頭が真っ白になるくらい驚いた。
「いえ……お店の写真をアップしてくれているとのことなので」
「へ、変なことは書いてないから大丈夫ですよ?」
「あ、いえいえ!そういう意味ではなくて……。ダメ、ですか?」
史郎がスマホを引っ込めようとしたので紗良は慌てた。
「ダメじゃないです!お願いします!」
紗良は勢い余って深々と頭を下げてしまった。他に客がほとんど残っておらず、紗良の定位置が店の奥だったため気づかれていないことが不幸中の幸いだ。
顔を上げると、同じく驚いたような史郎が、急にかしこまったようにスマホを操作し始めた。
「あ、ありがとうございます……。えっと、SNSってどれでしょう?」
紗良は自分が茜亭の写真をアップしているSNSを伝えた。史郎はそのSNSは使ったことがなかったらしく、紗良の前に座ってID登録操作を始めた。
客の動きを気にしつつ操作する史郎の姿を好ましく見つめながら、紗良は今の事態についていけずにいた。