怪奇病棟〜恐怖からは逃れられない〜
患者さんに頼まれた買い物を済ませ、私は病室を出ました。そろそろ夕食が運ばれてくる時間なので準備をしないといけません。

「えっと……食事介助が必要な人は……」

足を止め、仕事のことをまとめてあるメモ帳を取り出そうとした刹那、私の耳にカラカラと点滴棒を押す音が入ってきました。振り向くと、顔を辛そうに歪めた男性が歩いてきます。七百五号室に入院している前田さんです。

「前田さん!前田さんは今は安静にしていないといけないんです!何かほしいものがありましたら私が買ってきますので、部屋に戻りましょう」

前田さんは交通事故で救急車で搬送されてきた方で、全身を強打、肋骨を三本も折っています。頭も何針か縫っている状態なのに、何度も病室を抜け出して歩き回っているので、看護師さんたちが困っていました。

「あんな部屋にいるくらいなら、ここにいた方がマシだ!!」

前田さんは顔を真っ青にしながら歩いて行こうとします。私が「どういうことですか?」と訊ねると、前田さんは何かに怯えるような目を向けたのです。
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