怪奇病棟〜恐怖からは逃れられない〜
「女が……女が俺の部屋に出るんだよ!」

「女?」

夜中に見回りに来る看護師さんのことかと思いましたが、違うようでした。前田さんはまるで警察に追われている犯罪者のように辺りを警戒し、話し続けます。

「髪の長い女で、赤いワンピースを着てるんだ。その女がジッと俺のこと無表情で見て、その女が来ると部屋のものが勝手に動いたり床に落ちたりするんだよ!」

前田さんの部屋のものは、確かに部屋に入ると床に落ちていたりすることがあります。しかし、前田さんが寝ぼけて落としてしまったのだろうと思いました。

「前田さん、怖い夢を見てしまっているだけですよ。もうすぐお食事ですし、お部屋に戻ってください」

私がそう言うと、前田さんは絶望したかのようにゆっくりと部屋に戻って行きました。前田さんが部屋に戻ってくれたことにホッとし、私は届いたご飯を配り始めます。

「前田さん、お食事お持ちしました」

私が部屋に入ると、前田さんは「ああ、ありがと」と言いながらテレビを見ていました。先ほどの怯えた顔とは違い、少し落ち着いたようです。
< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop