人魚の標本
結局、あの標本はなんなんだろう。
忘れたのについ考えてしまう悪循環に嫌気がさす。
ちゃぷん…ちゃぷん……
さっさとお風呂からあがろう。テレビでもみて気持ちを切り替えよう。
ぼんやり上のほうを見ていた頭をふりかぶり、湯船から出ようとしたそのとき
ちゃぷん
私の、足が
「きゃああああああああああッ!?」
「朱里!? どうしたの!?」
勢いよくドアを開けたお母さんが入ってくるので手を伸ばした。
「おかあさんっ、足っ、わたしの足が!」
「足? ……転んだの? 滲みた?」
そう言われてもう一度湯船に目線を落とす。
なんともない、私の足。
どうして。
だっていま確かに、人魚みたいな……大きなヒレになっていたのに。