人魚の標本
「このさ、かげにあるのも標本かなぁ」
「かもね。……ねえ、先生、これはなんの標本?」
一つだけ厳重に鍵までかけてるなんて珍しい生き物なんだろうか。
まあまあ大きな入れ物が何個かあるようだけど暗くてよく見えない。
「ああ、それは人魚の標本です」
「人魚? 人魚って、海にいる半分人間のやつ?」
「はい、といっても厳密にはヒトミウオという種類らしいんですけど」
「ヒトミウオなんてきいたことないね」
水辺の町だし、家族に漁師がいるのも珍しくない。
ずっとこの町で育ってきた私たちでさえ知らない魚なのだからほいほい見つかるものじゃないんだろう。
引っ越してきた海斗なんてもっとわからないにちがいない。