人魚の標本


「貴重なものなので鍵をかけてるんです。今ちょっと持ってないので開けられないんですけど」

「ってことはこれは人魚のウロコってことですか?」


 私の肩口から棚をのぞき込んだ真智が聞くと、先生は「一応ね」と頷いた。

 人魚伝説はたしかにあるけど、それはここがかつて八百比丘尼(やおびくに)に縁があった土地だからっていうだけだ。

 地方都市にあるよくある昔話でしかない。

 もう少しよく見えないかと思って硝子の奥をのぞき込む。


 ぎょろ……


「ひっ!」

「うわ、なに朱里、どうしたの」

「目! 目がこっち見た!」

「はあ? 気のせいだろ、朱里びびりすぎ~」

「気のせい……?」


 もう一度のぞき込んでみるけれど、目の入った容器なんて見えるところには無かった。
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