人魚の標本

「朱里、ほんとに目なんか見たのか?」

「みた、と思ったんだけど」


 帰り道、家が近い海斗だけはしばらく一緒に歩くことになる。

 思い出したように聞かれたので返事をするけど、時間がたつにつれ自身がなくなっていく。

 びびりすぎ、なんて言われたけど本当にそうなのかな?

 でも目なんてなかったし、私がおおげさなだけ?

 もうわけがわからなかった。


「俺は朱里のこと信じるよ」

「えっ、どうして」

「だって、あの時、恵比寿先生笑ってたんだ」

「笑ってた?」


 ほほえましいなあ、みたいな顔ではないってこと?

 私がおびえたのを見て笑ってたの?
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