人魚の標本

「なんていうか、にやっとしてた」

「……なんだろ、なんか気味悪い」

「まあ心配しすぎんなよ、夢に出るぞ」

「怖いこと言わないでよ!」


 遠くに見える水平線に太陽が少しだけ触れている。

 真っ赤になった海も大好きなのに、今日は波の音もその色もひどく不気味なものに見えた。

 大好きな潮のにおいも、なんだか生臭い気がする。


「怖くて寝れないってんなら電話してやってもいーよ」

「人のこと幼稚園児か何かだと思ってない?」

「…………思ってねーよ」

「え? なに、聞こえなかった」

「なんでもねーよ! じゃあな、朱里!」


 頭をぐしゃぐしゃっと乱暴に撫でて、海斗は行ってしまった。
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