そろそろきみは、蹴られてくれ。



──うん、そうだよ、紗奈。


「……ありがと、橘」


ささやくようにこぼすと、橘は大人っぽい笑みを浮かべて、前を向いた。


選手全員がスタートラインに立って、出発の合図であるスターターピストルの係の準備も、終わって。


始まる。


空の広い青と、小さな白い雲と、淡く透明な風と。


そのなかでわたしは、手に力を込めた。


花乃……っ!

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