そろそろきみは、蹴られてくれ。


たしかにリレーは行われていて、選手たちが走っていて。


それなのに、写真の中みたいに時が止まって感じられた。


ちから強く前を見据えて、胸にてのひらをあてて、……きっと呼吸をしている、橘。


呼吸はしている、わかってる。


わかってるけど、ただの呼吸じゃない。


そうだ。橘だって、まったくもって緊張しないわけじゃないのに。


自分の緊張をまわりに見せないで、その感情を内側にもちながら、わたしと接してくれて。


やさしくしてくれて。


本来なら、わたしがそうする立場だったと思う。それなのに。


わたしは、どれだけ気づいてこなかったんだろう。

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