そろそろきみは、蹴られてくれ。


「……っ、橘!」


がんばって、は、言えなかった。


空に吸い込まれて、橘だけが目に入って。


さらにスピードをあげた彼に、もしかして、わたしの声が聞こえた? なんて期待までしてしまう。


橘に惹き付けられて、のまれて、もう。


言葉が出てこない。


1位を追い抜いて、ゴールテープを切った彼が。




応援席側を向いて、




はじめて見るくらいに目元をくしゃっとさせて、




白い歯をいーっと見せて、




思いっきり無邪気な笑顔で、




ピースサインを差し出した。

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