そろそろきみは、蹴られてくれ。


体ごとそちらから背けていたら、


「ねぇ」


と声がかけられた。


「ひゃいっ!」


うっ、間抜けな声。


「来てたんなら、声かけてよ……。めっちゃ恥ずいから」


くちもとをてのひらで隠した橘に、きゅんとしてしまって。


橘、ずるい。そんなに、かき乱してこないで。


わたし、ずるい。


だって、素直に伝えなくても生きられている。

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