そろそろきみは、蹴られてくれ。
目を細めた花乃が、きゅっとわたしを抱きしめた。
驚いてまばたきを繰り返した拍子に、ひとすじ、こぼれて。
「わたしね、紗奈ちゃんがこうしてくれたから、助かったんだよ。だから、ありがとうの印」
あ、と思ったときには、もう、抑えきれなくて。
ぼろぼろ、涙、止まんない。
「橘くんは、紗奈ちゃんが言うことならなんでも聞いちゃうと思うよ。耳を傾ける」
頭を撫でられ。
「伝えたいことを伝えたいとおりに声にできなくても、紗奈ちゃんを包んでくれる、あったかいひとなんだよ」
涙はあふれ続けて。
「だから、息だけ吸い込んで、声かけて。そうしたら、きっと、大丈夫」
ゆっくりと離れた彼女が、わたしのことを見上げる。