そろそろきみは、蹴られてくれ。
いまとなっては違和感でしかないけれど、その呼び方をしてくれていたおかげで、外堀から埋められることもなく、告白することができたんだよね。
ありがとう橘……! わたしもきっと、名前呼びするね。
でもほんと、名前呼びはハードルがすごい。てかもうこれ、壁じゃない? 石の壁。コンクリートの壁。どっちだろ、どっちにしてもすごい。
よじ登って、そのあと着地しなきゃっていう──やっぱものすごいって!
だってだって、まず高さが尋常じゃないじゃん。
着地──呼んだあと──も、目を合わせたいけど逸らしたくて、たぶん橘に合わせられて、たいへんじゃん、パニックじゃん、ええ!
ごめん橘、まだ無理! まって!
ねだられたことがあるくらいだから、名前呼びがいいと思うの。思うけど、ごめん!
心の中でさえ、名前で呼べないもん、名前呼び、としか言えないもん、おねがい、あと3年くらいちょうだい。
この “ くらい ” の文字には、10年ぶんは保険としてふくまれている。