そろそろきみは、蹴られてくれ。
橘が前髪にふれた。橘がふれたというだけで、効果音がさらり、な気がしたし、くすぐったさ以外にも思うところがあった。
……ずるい。
心臓の音が、聞こえていませんように。
「──紗奈」
「〜っ!?」
吐息混じりの、呼びすて。そんなの知らない。聞いたことがなかった。呼ぶなんて、聞かされてもいなかった。
指先に、ぎゅうと、ちからをこめてしまう。反射的なことで、自覚して、また熱くなった。
いま、どんな表情を浮かべているの。知りたいのに、まぶたを開けることはできなくて。
「……あ、」
びっくりしたから、くちびるが震えている。声が出てしまった。ひらいた状態のくち。そこに、橘が、キスを……?