そろそろきみは、蹴られてくれ。


「紗奈ちゃん」


振り返らなくてもわかる。何、橘。返そうとして、腕をぐいと引っ張られた。


「うあっ!?」


突然のことに驚いてしまって、思わず声が。橘はなんだか──……これはどんな表情? 拗ねているのか、怒っているのか。


自動販売機の影に連れられて、あ、このあいだの場所だ、と思った。急に体温が上がる。


ちかい、ちかいちかいちかい。


壁に背をぴったりとつける。それでも橘はちかづいてくる。


「ちょっ、どうしたの!」


顔を逸らした先で、文化祭のポスターが並んでいた。ビビットカラーが目を引く、素敵なポスターたち。


あとでじっくり見よう。いまはとりあえずどうにかする。切り抜けねば。


「静かに」


口元に人差し指を添えた彼が、しぃっとささやいた。


え? なんでそんなに似合うんだ、儚げから憂い気、可愛い系、かっこいい系、いままででなんでもかんでも似合った挙句、いまはしーって仕草は可愛いのに表情では色気ー! 現象を引き起こしている。罪がどんどん重なっていってるよ、へいき?

< 489 / 625 >

この作品をシェア

pagetop