そろそろきみは、蹴られてくれ。
「紗奈ちゃん」
振り返らなくてもわかる。何、橘。返そうとして、腕をぐいと引っ張られた。
「うあっ!?」
突然のことに驚いてしまって、思わず声が。橘はなんだか──……これはどんな表情? 拗ねているのか、怒っているのか。
自動販売機の影に連れられて、あ、このあいだの場所だ、と思った。急に体温が上がる。
ちかい、ちかいちかいちかい。
壁に背をぴったりとつける。それでも橘はちかづいてくる。
「ちょっ、どうしたの!」
顔を逸らした先で、文化祭のポスターが並んでいた。ビビットカラーが目を引く、素敵なポスターたち。
あとでじっくり見よう。いまはとりあえずどうにかする。切り抜けねば。
「静かに」
口元に人差し指を添えた彼が、しぃっとささやいた。
え? なんでそんなに似合うんだ、儚げから憂い気、可愛い系、かっこいい系、いままででなんでもかんでも似合った挙句、いまはしーって仕草は可愛いのに表情では色気ー! 現象を引き起こしている。罪がどんどん重なっていってるよ、へいき?