そろそろきみは、蹴られてくれ。


「ひと、行ったね」


たしかに、声は遠のいた気がする。というか──えっ、ひと、いなすぎない?


ああ、でもそっか。あと5分ちょっともしたら、文化祭はじまるもんね。各持ち場で待機しているのか。


橘たち、校内を歩いて勧誘する係は、最初は自分たちの出し物の会場スタートになっている。


だからここにいても、まだ大丈夫なのだろう。


だとしても、だ。


「なんで連れてきたの? もう文化祭はじまる──よね」

「紗奈ちゃん」


半ばさえぎられて、たじろいで、合わせていた目をそらす。


わかってる。ごめんって。


「その……あんまりはっきり見ないでよ。恥ずかしい」


いま話さなかったら、4人でまわるときまで話せないのに。朝から話していなくて、いきなり文化祭まわる! となったら、すこし、いつも通りでいられなさそうな気がする。


それなのに、眼鏡のわたしを見られるのが恥ずかしくて逃げをとろうとした。ごめんね。ほんとうはわたしも、話したい。


……それにしたって、橘──。ガン見すぎでは? 視線が痛い、強い。目、大きいんだからさ。弱めて。お願い。

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