そろそろきみは、蹴られてくれ。


「〜っ、ばか! っていうか、なんで、キスしたの!」

「だっておれ、いいこでまってたでしょ?」


まってた? 何が。


「シフト発表された日から、ずっと、心の準備させてたでしょ。いまこの瞬間が、絶好のチャンスだと思ったんだけど」


『ふぅん。ひとが近くにいなくて、心の準備をするだけの十分な時間があれば、いいんだ』


っ、ほんと、ばか。


橘のばか、わたしのばか、ちょっとだいぶうれしくなっちゃったのもばかの塊でしかない、このやろう!


顔が近づけられて、きつく目を閉じる。


ちゅ、と頬にキスを落とされて、思わず呼吸を忘れてしまった。


「へへ」


彼はわらって、来た道を戻っていく。……わたしは、戻れないでいた。

< 494 / 625 >

この作品をシェア

pagetop