そろそろきみは、蹴られてくれ。
橘が、1歩、引いて。
ディフェンスがうしろの味方を警戒してそちらに向けて手足を伸ばす。
橘は踏み込んで、小回りでいながらもたしかに相手を引き離し、外から抜けていった。
まわりの女子の歓声が一気に高まる。
わたしも、声を。思うのに、いざとなったら何を言っていいかわからない。
がんばって、も、かっこいい、も、なんだって言えるはずで、言っていいはずで、橘は受け入れてくれるはずなのに。
前から駆けてきた、背の高い相手校の選手。
ゴールにいまこれ以上ちかづいたら、相手が有利になってしまうだろう。
スリーポイントラインは真下で、橘はブレーキをかけ、ほんのすこしだけ体を下げた。
……あ、線、踏まないように。