そろそろきみは、蹴られてくれ。


「茅田紗奈、押します!」


宣言して、震える指を伸ばす。


冬の冷え切った指先が、同じくらいの温度の機械と触れた。


ピンポーン


チャイムのいい音が鳴って、ほっと胸を撫で下ろす。


橘の家のチャイム、めちゃくちゃいい音じゃない? それは達成感からなのか、緊張感のゆるみからなのか。


ぴんと張っていた糸が余裕をもちはじめたから、音に芸術を見出すだけの感性ができたのだろうか。こんなことを考えていないと身が持たない。


今日の格好、おかしくない? だいぶいまさらだけど、緊張してきた……。

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