そろそろきみは、蹴られてくれ。


「紗奈ちゃん、すきです」

「……は?」


不可解な行動のあとの言葉。


「じゃあ、今日はここまで」


先生の声が、やけにはっきりと聞こえた。さっきまではまったく聞こえていなかったのに、終わりには敏感だ。早く終わってほしかったもんな。


委員長の「起立」が聞こえ、立ち上がる──も、離れない手。


困惑して彼を見上げると、彼はただただ前を向いていた。


視線に気がついたらしく、横目でこちらを確認して。




ぎゅっと、さらに力を込めた。




礼、の声が聞こえても、わたしは頭を下げなかった。放心。そんなわたしに、彼が指をさして大きく笑う。


おいおい、笑うな。


いちばん後ろの席だからって、すき勝手していいわけじゃ……ていうか、いちばん後ろじゃなくてもちょっかい出さないでほしい、え、わたし、告白され……?


手を離され、するり、指先どうしがすれ違う。


「本気」


たったひと単語ののち、片側の口角だけをもち上げた彼が得意げに、わたしの頭にてのひらを置いた。


「〜っ!」


ムカつく!!!

< 6 / 625 >

この作品をシェア

pagetop