そろそろきみは、蹴られてくれ。


「……へいき?」


親指で自分のくちびるをぬぐった橘が、いつもよりもすこし低い、掠れた声でたずねる。


「へいき……だけど、えっと」


気持ち的にも体力的にも、いっぱいいっぱいかも……。


ずるずるとその場に座り込み、橘を驚かせてしまった。


「わっ、ごめん、しすぎた!?」


首を横に振って、「大丈夫」と繰り返す。


「そんなこと言ってると、またしちゃうよ」


また……また? またって、キスを?


しゃがんで目線を合わせてくれている彼から、視線が外せない。


「ごめんね、無茶させちゃった。ね、やばかったらやばいって言って。気ぃつかわなくていいし……」

「橘」


半ばさえぎるように呼んでしまって、自分でもすこしびっくりする。


……した、けれど。

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