そろそろきみは、蹴られてくれ。


「……っ、なんで、声」


ふれるだけの、一瞬のキス。


直前、声がしたのはどうして?


「あ、その、 “ ごめんいじわるしすぎた ” って、 “ 無理しないでいいよ ” って、言おうと思って目を開けたら、──すごくて」


……ずるい。


ずるいずるいずるい。


「ごめん、……おれが無理」


これじゃあまた、わたしの負けじゃん。


──……でも、それだっていいかな。


長い長いキス。輪郭を優しくなぞる指先。


あがきようがない愛で、あがこうとすらも思えない愛。


ありがとう、橘。


だいすきだよ。言いすぎたとしても、思いすぎたとしても、需要と供給のグラフみたいなことにはならないはずだから。


価値、変わらないと思うから。


──だからずっと、たくさん言わせて。

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