それ以外の方法を僕は知らない
「…それは…大丈夫、なの?」
「わかんない。…けど、先生には言ってない」
「聴こえなくなってきてること?」
「うん」
「…どうして?」
「今、先生忙しい時期だし、一人の生徒にかまってられないだろ」
そう言った彼は、心なしか寂しそうに見えた。彼の表情と言葉が引っかかる。
なんだか落ち着かない。
「…忙しい時期って、3年生の受験があるから?」
「それもあるけど、…先生結婚するから。色々、手続きとかあるんじゃない?詳しくは知らないけど」
今日、確かに先生は資料のホッチキス止めが終わらないと嘆いていた。
結婚も近いという噂だったから、私生活でも忙しい時期なのだろう。
そっか。旭先生、結婚するんだ。
イケメン彼氏との結婚。
おめでたいことだなぁ。
───…って。
「…え?」
彼の言葉を頭の中で再生しながら、私はまたしても同じような声を洩らす。