それ以外の方法を僕は知らない
「ねえ、克真くんさ」
「なに?」
「…先生に、気持ち伝えなくていいの?」
今日、彼に聞きたいことはそれだけだった。
「大丈夫?」なんて言葉はもう意味の無いものだと気付いた。
大丈夫じゃなくても、人は「大丈夫」だと言う。
克真くんは優しくて、だれよりも臆病だ。
そんなきみの嘘は、もう聞きたくなかった。
「…いいんだよ、俺は」
視線を逸らされ、彼は窓の鍵を開けて外の空気を取り込む。
2月下旬。
真冬の空気がピリピリと肌を刺激した。
「もう、どうせすぐいなくなっちゃうから」
───旭先生がいなくなるまで、あと1週間を切っていた。