それ以外の方法を僕は知らない
謝って欲しいんじゃない。
克真くんに幸せになってほしいんだ。
私ときみが結ばれないことが分かっているからこそ、そう思うのだ。
克真くんがこれから先 気持ちよく過ごせるように。
もしいつか音が聴こえなくなっても、殻に閉じこもるのではなく、きちんと向き合えるように。
私の気持ちには蓋をして、克真くんを見守るって決めたのに。
きみの背中を押したかった。
きみの役に立ちたかった。
最後までずっと、きみのいちばんの友達で居たかったんだ。
「音々、」
「…っ、うう」
「…ごめん、俺…先生のところいってくる」
克真くんはそう言うと、首にかけていたヘッドホンを取ると私に預けた。
「これ、音々に預ける」
「っえ、」
「…すぐ戻るから、ここで待ってて」
走り出した彼の背中を見つめる。数分前まで頬を流れていた涙は、もう乾いていた。
───どうか、きみがちゃんと前に進めますように。
それだけが、私の願いだった。